「点・線・面」の概念をイメージできただろうか。
人は頭のなかに一度面ができあがると、点や線の情報が新たに入ってきたときに、その情報が全体のなかでどのような位置づけや価値を持つのか、面のなかに落とし込んで判断することが可能になる。
その「面の質」がどんどん上がっていくのだ。
たとえば友人から、新しくオープンしたばかりのイタリア料理店の情報を仕入れたとする。
頭のなかに地図(面)ができていれば、「二丁目の美容室の隣のあたりだな」というように、すぐにマッピングができるわけである。
新聞記事も同じである。
面ができている人は、「OO社とOO社が合併」という記事を読んだときに、「この合併は海外展開への布石として行なわれるものだな」というように、点の情報である新聞記事を、面の視点から分析することが可能になる。
面で点を判断できるのである。
逆に面や線ができていない人は、点の情報である新聞記事を読んでも、全体のなかでのその情報の持つ価値や位置がわからない。
「OO電機がロシアに新工場を建設」という記事を読んだとしても、いったいその企業がどんな経営戦略に基づいてロシア.のどのエリアにどの程度の規模の工場を建設するのか、そもそも重要な情報なのかどうか、まったく判断がつかないわけだ。
だから面や線ができていない新人のビジネスパーソンが日経新聞を読んでも、本当は、ちんぷんかんぷんなのである。
面や線ができないと、日経新聞を読んだところで理解できるわけがないのである。
大上段に構えて言ってしまえば、人類が書物を発明したことの一番大きな功績は、面で情報を伝えることができるようになったことだ。
口承で情報の伝達が行なわれていたころは、人々は切れ切れの点の情報を集めて線にして、面にしていくしかなかった。
点から線へ、線から面への勉強法しかなかった。
書物であれば、一挙に面の情報を受け取ることができる。
書物とは、面を獲得した人物が著者となって、その面を体系的に読者に伝えることを目的に書かれたものが多いのである。
書物の発明によって、面から面への情報の伝授が可能になったのだ。
利用しない手はない。
私がコンサルタントになったばかりのころ、一日一冊本を読むことを自分に課していたのは、前述したとおりである。
前職が建築家だった私にとって、コンサルティング会社への転職は、まったくの異分野への転身だった。
経営学や経済学についての知識はゼロに等しく、コンサルティングの専門用語もクライアントの業界用語もわからなかった。
水泳の経験がまったくない人が、いきなり海に飛び込むようなものである。
だから私は一日一冊本を読むことで、貧欲に情報を吸収していったのである。
自分の知識という血や肉にしていったのだ。
現場のコンサルティング・シーンを通して、点としての知識が、線になり、次第に面になって認識になっていった。
新聞は点の情報であり、雑誌は線の情報であり、書籍は面の情報である。
テレビのビジネス情報番組は、線の情報だろう。
ここで気をつけておきたいのは、新聞も雑誌も書籍もテレビも、そのまま受動的に読んで見たりしている限りは、あくまでも「情報」に過ぎないことだ。
七八ページでも述べたように、「情報」は「知識」や「認識」に転化していかないと、自分のものにならない。
テレビが書籍と違うのは、ボーッと映像とナレーションを受け流しているだけでもそれなりに見ることができてしまう点だ。
書籍の場合は、少なくとも書いてあることの意味を理解できないと次のページに進めないし、批判的・検証的に読み込んでいかないと読書はおもしろいものにならないが、テレビの場合は受動的に見ていても、それなりにわかった気になってしまうのだ。
テレビのビジネス情報番組で流されるストーリーは、あくまでも他者がつくったストーリーである。
鵜呑みにしていては、受け売り以外の何者でもなくなってしま、っ。
二OO九年七月、キリンとサントリーとのあいだで経営統合のための交渉が行なわれていることが明らかになった。
数字でモノを考える癖がある人ならば、こんなとき「キリンとサントリーが統合したら、売上高はいくらになるのだ?」ということ。
するとトヨタの売上高は、約二0・五兆円であることがわかった。
トヨタの約二0・五兆円に対して、キリン&サントリーは約三・八兆円。
何と五倍以上もの聞きがある。
私たちは「キリンとサントリーが経営統合か」という記事を読むと、とんでもないガリバー企業が誕生するような印象を抱きがちだが、トヨタの売上高と比較してみることで、その規模を正確に把握することが可能になる。
それにしても、キリンとサントリーは統合後には食品業界のリーデイング・カンパニーになるのに、どうしてトヨタとのあいだにこんなに売上高の差が出るのだろう一つには、食品業界は業態が多様であるため、経営規模の拡大や寡占化が進みにくい業界であるということがいえる。
自動車とは対照的な産業構造なのだ。
もう一つの理由として考えられるのが、「グローバル化」である。
トヨタは、グローバル展開を積極的に進めている企業として知られている。
事実、売上高を調べてみると、既に海外での売上高が、国内での売上高を上回っている。
一方、キリンやサントリーは、国内市場を中心に事業を展開しているというイメージが強い。
「一番搾り」も「モルツ」も国内では人気ブランドだが、海外でもたくさん飲まれているという印象はない。
そこで試しにキリンの売上高に占める海外シェアを調べてみると、二五%程度に留まっている。
それでもここ数年キリンは、M&Aなどを積極的に展開することで、急激に海外シェアを伸ばしつつあるのだが・成熟した圏内市場を中心に展開している限りは、売上はどうしたって頭打ちにならざるを得ない。
事実、ビール類(発泡酒、新ジャンルを含む)の国内出荷数量を調べて一九九四年の七二六万キロリットルをピークにして、二OO八年には六二みると、万キロリットルにまで落ち込んでいる。
さて、次にキリン&サントリーを、世界最大の食品メーカーであるネスレと比較してみる。
キリン&サントリーの売上高が約三・八兆円なのに対して、ネスレは何と約一0・三兆円。
先ほど私は「食品メーカーは規模の拡大がむずかしい」と述べたが、ネスレが食品業界においていかに巨大カンパニーであるかということが理解できる。
ちなみにネスレの本社があるのはスイス。
数字でモノを考える癖がある人は、ここでも知的好奇心のアンテナが働く。
「スイスってヨーロッパの小国だよね。
そんな小国にネスレのような巨大企業があるのだ!」と。
スイスの人口は約七六O万人。
日本の約二ハ分の一だ。
GDPは約五000億ドル。
日本の約一O分の一。
それなのになぜ、ネスレは世界最大の食品メ調べてみると、理由は簡単。
トヨタ以上にグローバル化を進めてきたからだ。
事実、ネスレの地域別の売上高の比率を調べてみると、ヨーロッパが約三O%、南北アメリカも約三Oこうしてキリンとサントリーが統合したときの売上高の数字を、ほかの数字と結びつけて比較してみることで、キリン&サントリーが世界市場のなかで置かれているポジションが見えてくるわけだ。
「なるほど、キリンもサントリーも、これからは海外展開なくして、発展はないのだな」ということが改めて実感できる。
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